【マルヨシ通信No.92】
読んで面白かった、有益だったという領域を超えて、感動が残っているという本に巡り合うのは本当にまれな事です。今回、ご紹介するフレンチの巨匠三國清三シェフの自伝「三流シェフ」がまさしく感動を残したまま読了すると言う本です。料理に詳しくない人でも「世界のミクニ」という料理界のカリスマ、三國シェフの名前は聞いたことがあるのではないでしょうか？
幻冬舎 1,650円
三國シェフの略歴は下段に載せましたが、読者が興味を持ち、唖然とするのは彼の生い立ちではないでしょうか？
最高級のフランス料理ですからほぼ芸術の世界です。さぞかし親は三國さんが小さい頃から高級仏料理を食べさせて英才教育をしたのではないかと考えます。
然し、三國さんが生まれたところは北海道・増毛（ましけ）町で三國さんは兄弟７人の極貧の家庭に生まれ中学を卒業するまで漁師の父と一緒に小さな船に乗って漁を手伝っていたというところから自伝は始まります。肉は年に数回しか食べられなかったが、海で獲れたタコ、イカ、エビ、ニシン、鮭、ウニ、アワビなど新鮮な海産物を毎日の様に食べ、海の香りや深い旨味を感じて自然に味覚が鋭くなったと本書の中で書いています。
【増毛】
ぞうもうではなくましけと読む。アイヌ語でカモメを表し、昔はニシンの群来によりカモメが多く飛来した事が所以
読んでいて感じたのは三國さんは決して料理の腕が優れていただけではありません。天下人、豊臣秀吉に似たような「人たらし」の能力や才能がありました。頭の回転が早く、自分が今接している人が何を欲しているのか適格に当てて、即行動に移していました。650人の料理人の上に立つ帝国ホテル専務取締役総料理長の村上信夫さんに近づく為に、朝の挨拶回りの最後に立ち寄るトイレでは毎朝隣に立って自分も小用を足しながら名前を憶えて貰う努力をしていました。頼まれた仕事も器用に素早く処理します。鍋や食器を洗う場合でも決して手を抜かずピカピカに仕上げる。人見知りせず自分から積極的に挨拶し、話しかけて、誰からも可愛がられる。抜きに出る要素は備えておりました。
三國さんは自身の挫折も書いています。18歳で帝国ホテルに入り、20歳過ぎても正社員になれずに洗い場の仕事を続けており「一生このまま洗い場で終わるのだろうか？」と不安になったそうです。増毛町に戻り漁師をやろうと考えた事もあった様です。ところが、村上料理長は三國さんの一挙手一投足を見ていて20歳になったばかりの三國さんをジュネーブ駐在の小木曾本雄国連大使専属のシェフとして推薦をし、三國さんが世界に大きく羽ばたく素地を作ってくれました。
「自分はフランス人ではないのでどんなに極めてもフランス料理界において最高峰の栄冠は獲れない」という苦悶の日々も長くありました。然し、フランス料理界も日々進化し新しいものを採り入れて更に洗練された料理にして行こうという流れがありました。そこで三國さんは結論を出します。伝統的なフランス料理の基本を完璧に抑えた上で、和を採り入れ日本人にしか出来ない繊細な味付けや色彩の美を表現して三國オリジナルを作り世界のミクニと評される様になりました。
著者【三國清三(みくにきよみ)】 1954年北海道・増毛町生まれ。フレンチシェフ。中学卒業後、帝国ホテルの鍋洗いから身を起こし、20歳でジュネーブ日本大使館料理長に就任、その後有名三ツ星レストランで修行後帰国して四ツ谷にオテル・ドゥ・ミクニを開店。2015年仏レジオン・ドヌール勲章を受章。コロナ禍を期に家庭で出来るフランス料理を教えるYou Tubeを始め、現在登録者数40万人
ページ作成日 2023-03-03
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